クライオスタット使用マニュアル

2001.11.7 宇留賀

version 2000.10.2からの変更箇所:

試料ホルダー、熱輻射シールド及び真空チェンバー蓋をコンパクトなものに改良したことによる変更。

 

1         クライオスタット本体の運転

1-1  冷却ホルダーの位置設定

・透過法の場合は入射X線に垂直になるように、また蛍光法の場合は入射X線に対し45°になるように冷却ロッドを回転させる。

・作業は、安全に実行するため、必ず2名以上で行うこと。

(1)    まず、回転固定ネジ(4本)を緩める。

(2)    一人が靴を脱いで定盤の上に登り、コンプレッサからのHe用ブレードホース及びクライオスタット本体とのコネクタ部にストレスがかからないようにホースの配置を変えながらゆっくり回転させる。

(3)    最後に回転固定ネジを締める。

 

1-2  試料ホルダーの取り外し方

通常は試料ホルダーを冷凍機に取り付けた状態で試料の取り付け・取り外しを行うこと。

試料ホルダーの取り外し作業に関しては注意を要する点が増えたため、試料ホルダーを外すことが必要な場合(自前のホルダーを取り付ける場合等)は、予めBL担当者に連絡をし、立会いの下で作業を行うこと。以下に作業の手順を述べる。

(1)    真空チェンバーを外す。この時、マイラ窓を破損しないよう注意すること。またo-リングに傷を付けぬよう注意すること。

(2)    熱輻射シールドを外す。

(3)    試料ホルダーの上方と下方の2箇所に取り付けられている熱電対を外す。上方の熱電対は試料ホルダーの穴に差し込まれているものを引き抜く。下方の熱電対は、コネクタの部分で外し、試料ホルダーと一体で取り外す。

(4)    下から締めこまれている銅製ボルトを外し、試料チェンバーを外す。ボルトは細い六角レンチの棒の部分をボルトの横穴に差し込んで回すこと。作業中、熱電対の付け根の部分に負荷をかけて断線させないよう注意すること。

(5)    試料の取り付けやホルダーの交換を行う。

(6)    下方の熱電対のケーブルをアルミテープでホルダー底板側面に固定する。

(7)    下方の熱電対のコネクターを結合する。長い線どうしが結合するようにすること。

(8)    上方の熱電対をホルダーの穴に、熱電対とホルダー穴壁の熱接触を取るため、低温グリースを充填する。

(9)    上方の熱電対をホルダー穴に差し込む。アルミテープで落下せぬように固定する。

 

1-3  試料の取り付け

(1)    試料は、10mmφペレットの場合、最大5個まで取り付けることが可能である。(ビーム透過穴の上下間隔:11mm)。

(2)    試料全体を試料ホルダー温度までできるだけ均一に冷やすため、試料をアルミホイル(低エネルギーの場合は吸収を抑えるため3μm厚アルミ箔)で包む。

(3)    専用取付プレートで試料を挟み込むようにホルダーに取り付ける。ボルトを締めこむ際、締め込み過ぎて試料を破損しないよう注意すること。

(4)    レーザー(またはオートレベラー)でおよそのビーム位置に試料を合わせる。精密には、透過光強度をモニターしながら、クライオスタットの設置されているZステージ(クライオZステージ)をパルスモータースキャン(PM16C scan)し、ビーム透過穴の上下方向の中心を求める。

(5)    種々の理由で試料のスペクトルに不安がある場合、この状態でXAFSスペクトルを粗くとり確認を行うことが望ましい。

(6)    試料ホルダーカバーを取り付ける。4本のボルトを下方から挿入し、締めこむ。蛍光モードで45°配置にする場合、窓の向きが光軸に合うように、ボルト穴を選択し、取り付けること。

(7)    熱輻射シールドを下方向からねじ込み、取り付ける。熱電対のケーブルを引っ掛けたり、挟み込んだりしないように注意すること。蛍光モードで45°配置にする場合、窓の向きが光軸に合うように取り付けること。

(8)    真空チェンバー蓋を取り付ける。4本のボルトを上方向から挿入し、手締めにより対角に締める。ボルトが固い場合はボルトが垂直に入っていないためなので、必ずボルトを一度抜き、再度入れ直すこと。六角レンチは使わないこと。

 

1-4  真空引き

(1)    現状、試料チェンバーにHeを充填するとリークが見られるため、試料チェンバーは真空状態で使用すること。クライオ架台に設置されたVacuumバルブとHeバルブには触らないこと。

(2)    冷凍機本体真空引き用バルブをcloseにする。

(3)    排気セットのリークバルブをcloseにする。

(4)    スクロールポンプのStartスイッチをonにする。

(5)    冷凍機本体真空引き用バルブをゆっくりopenにする。

(6)    真空度がある程度上がるまで、5分間待つ。スクロールポンプがポンポン音をする場合は大きなリークがあるので、スクロールポンプを停止し、リークを止める。

(7)    真空計のpower onする。

(8)    真空計のoption スイッチをonする。これにより、低真空時の真空度がTCゲージにより計測される。真空度が5*102 Pa以下になると表示される。数値が表示されない場合は、真空度がまだ悪い時なので、しばらく待つこと。

(9)    optionスイッチonから、10分以内に1*102 Paに達することを確認する。

(10) ターボ分子ポンプ(TMP)のstartスイッチをonする。

(11) 2〜3分程度で回転数がFull回転(1200 Hz)になることを確認する。

(12) TMP startスイッチonから3分程度で5*100 Paに達することを確認する。

(13) 2*100 Paになったら、真空計のoption スイッチをoffにし、フィラメントスイッチをonにする。これにより、高真空時の真空度がA-Bゲージにより計測される。

(14) TMP startスイッチonから10分程度で真空度5*10-1 Paに到達することを確認する。

 

1-5  コンプレッサの運転

(1)    実験ハッチ裏に行く。

(2)    コンプレッサの冷却水のバルブがin、out共openになっていることを確認する。

(3)    コンプレッサのスイッチをOnにする。

(4)    冷凍機の運転が開始される。

 

2         温度コントローラー(SI社9650型)の調整

2-1  Power onにする。

2-2  PIDを設定する。

(1)    テンキー4(PID)を押す。

(2)    →キーとテンキーでPIDを設定する。

目標温度が8〜100 Kの場合

P=30 、I=30、D=10、R=10

目標温度が100〜300 Kの場合

P=30 、I=50、D=10、R=10

 

2-3  到達目標温度の設定

(1)    テンキー8(SET)を押す。

(2)    windowの右側にS XXXと表示される。

(3)    →キーとテンキーでXXXの箇所に希望温度を入力する。

(4)    Enterキーを押す。

 

2-4  目標温度への動作start

(1) MANキーを押す。

 

2-5  真空度の上昇の確認

(1)    クライオ効果で、真空度が1*10-3 Pa程度以下になることを確認する。

 

2-6  カプトン窓結露の防止

(1) 試料温度を低温から昇温しながら測定をする場合、100K以上で、真空度の悪化により結露が生ずる場合がある。これを防ぐために扇風機の風が真空チェンバーに当るようにする。Low speedでよい。窓に直接風が当っていなくとも、空気が流れているだけで結露を防ぐことができる。

 

3         クライオの表示温度が不安定な場合の対処の仕方

3-1 初期対処

(1)    温度が不安定な場合、まず真空度が1*10-3 Pa以下になっていることを確認する。

(2)    真空度に問題がない場合、BL担当者を呼ぶ。(現地に不在の場合、連絡先に連絡をとる。)

(3)    真空度に問題がない場合、クライオ温度コントローラーのPID制御に問題があることが原因として考えられる。下記に調整手順を記述するが、ユーザーが単独で行う場合は、まず必ずBL担当者に確認をとること。

 

3-2クライオ温度コントローラーPIDパラメーターの調整手順

(1)    冷凍機からホルダーまでの部分の材料である無酸素銅の熱伝導率が、80 K付近を境にして大きく変化する。このため、制御パラメーターを変更する必要が生ずる。

(2)    システムを最低温度まで下げる。

(3)    設定温度をS(K)とする。

S×0.7〜0.8の温度において安定になるよう、PIDを設定する。

(4)    まず、I=0、D=0にセットし、Pの調整を行う。

P=50の周りで安定条件を捜す。

振動がある場合、振動が小さくなるまで、Pを小さくする。

振動がない場合、わずかな振動が始まるまで、Pを大きくする。

求められた値をP=P0とする。

(5)    次に、P=P0、D=0で、Iの調整を行う。

振動周期をt(s)の場合、I=tからスタートする。(通常I〜30)

振動が僅かに増えるまで、Iを小さくする。(通常I=10〜30)

求められた値をI=I0とする。

(6)    最後に、P=P0、I=I0で、Dの調整を行う。

D=I0/2/0.4=I0/0.8にセットする。(通常D〜10)

これにより振動が少し減るはずである。

Dを調整はあまり効かないことが多いので、D=10にセットしてもよい。

 

4         試料交換手順

4-1 クライオを室温まで昇温する。

(1)    冷凍機のコンプレッサ(実験ハッチ裏側の装置)をOffにする。

(2)    クライオスタットの温度コントローラーの設定温度を295 Kにセットする。

(3)    試料ホルダーの温度が温度コントローラーの表示で室温付近になるまで待つ。(40-50分程度)

(4)    その時点では、クライオ冷却器本体は低温下にある。クライオ冷却器本体が室温付近に達するまで更に30分程度待つ。

 

4-2 真空ポンプの停止、リーク

(1)   クライオ本体と真空ポンプセットの間のバルブを閉じる。

(2)   真空ゲージのフィラメントスイッチをOffにする。

(3)   TMPをOffにする。

(4)   TMPの回転が0 Hzになるまで待つ。STARTランプが消灯する。

(5)   真空計のPowerをOffにする。

(6)   スクロールポンプをOffにする。

(7)   真空ポンプセットのリークバルブをゆっくり開き、ポンプ側を大気圧にする。

(8)   クライオ本体と真空ポンプセットの間のバルブをゆっくり開き、クライオ本体を大気圧にする。バルブを急激に開けるとマイラ窓が破損する恐れがあるので注意すること。

(9)   1-2節の試料の取り外し以下の手順に従って、試料を交換する。

 

5         使用後の後片付け

5-1 クライオ、真空ポンプ類

(1)    クライオ本体は最後の試料測定後、4-1以下の手順に従って室温に戻す。

クライオ本体の結露を防ぐため、試料ホルダー付近のみでなく、必ずクライオ本体上部の冷却器の部分も室温に戻るまで待つこと。

(2)    試料の取り外し手順に従って、真空ポンプの停止・真空リーク、試料の取り外しを行う。

(3)    クライオ温度コントローラーのPowerをOffにする。

 

5-2 後片付け

(1)    試料ホルダー、熱輻射シールド等を取り付けた状態で、真空チェンバー蓋をクライオ本体に軽くネジ止めする。

(2)    余ったネジ類は、クライオ用工具箱にしまう。

 

6         (付録)クライオスタット付属品リスト

6-1 消耗品

(1)    回転部シール用o-ring

AS568A-042 (材質:ニトリルブチル、バイトン共にOK)

 

7         Appendix 1)PID設定値調整の原理

(1)    クライオスタットの冷凍機は常時フルパワーで駆動している。

従って温度制御をしない場合、輻射熱との平衡点(到達最低温度)に達する。

(2)    温度制御は、冷凍機から試料ホルダーまでのロッド部分に巻き付けられたヒーター線かける電圧により制御する。

(3)    P(PROP):比例ゲイン

設定温度と現状温度の差に対し、ヒーターに負荷する電圧を決定する比例係数

小さすぎると、収束が遅い。

高すぎると、オーバーシュートする。

(4)    I(INT):積分時定数

検出された温度差に対する応答速度を決める。

(5)    D(DER):微分時定数

ヒーターによる温度変化が温度センサーに伝達するまでの遅延に対し、温度変化の時間微係数から予想温度を見積もる際の係数。

小さすぎると、温度予想が遅れるのでオーバーシュートする。

大きすぎると、設定温度に到達前に逆方向の制御を行ってしまうので、収束が遅くなる。

PとIにより安定制御が実現されている場合、設定温度と現状温度の差が小さいので微分項は小さな値となり、Dの値はあまり効かない。